銀座「三州屋」にて
2007年 06月 10日
兄弟!
そろそろ用事が終わるぞ、という夕薫、月島の若旦那に電話をした。
「若旦那、アンバサタです」
「お疲れ様。如何しました」
ええ、なんとなく声を聞きたくて、と暇潰しの相手に多忙な編集者を煩わせ
る程、アンバサタは非常識ではない。
「実は斯く斯く云云。あの、若旦那、本日はお休みですか」
「ええ。有楽町で買い物の最中です」
「若し、お宜しければ、直に御会いしてお話を伺いたいのですが」
「ええ、どうぞ。じゃあ、1時間後に」
と、電話を切った。だってさ、兄弟姉妹。突っ込んだ事を話すのに、目にも見
えない電波に頼っていては、その本意は伝わらないでしょ。ここに文明なる
利器の限界がある。がたごと地下鉄に揺られ、銀座は一丁目、待ち合わせ
場所の、ヤマハ楽器店の仮住まい(本店は只今改装中)に着きにけり。一寸、
アンバサタは早く到着したので、一階のCD売り場で居並ぶ音盤相手に夢中
になっていると「やあ、彦さん。お待たせしました」と、ゆふいん音楽祭新聞編
集長、月島堂主人、又の名を月島の若旦那が涼しげな装いで現れた。
「済みません、お呼び立て致しまして」
先ず、ヤマハでの用事を済まし、さてさて。
「彦さん、どっか這入りましょうか」
へえ、お任せします、と暫しの逍遥の後、一軒の店の暖簾を潜る。屋号を見
れば『三州屋』。彼の文人墨客も愛した大衆割烹である。
その高名さはアンバサタと云えども周知であり、一度は敷居を跨いでみた
と思っていた名店。
いらっしゃい、お飲みものは。という女将の問いに、若旦那は
「お酒を下さい。冷で二合」
と応えた。おいおい、こんな有名店でいきなり……と思い、屋内に貼られた
品書きを見ると、生ビール一杯550円。肴も大概500円~600円と驚く程
高くはない。
「お待ちどう様」
『白鶴』と染め付けた銚子と共に、お通しの「しらすおろし」が、白木の卓に
硝子の杯と共に並ぶ。その乙な風情も去る事乍、その肴が入った粋な器、
特に大根おろしの半分にうっすらと下地(紫、即ち、醤油の事也)が掛けて
あるのが心憎い。
「じゃ、彦さん。お疲れ様」
と、若旦那の音頭で杯を鳴らす。尽かさず肴の注文を採りに来た女将に向
かい
「では、鰹と、ほっき貝。それから蚕豆を下さい」
別段、若旦那を美化しよう、という積りは無いが、その注文は全て理に叶
っている。今の時期、鰹や蚕豆が美味いのは周知だが、貝とは恐れ入っ
た。
初夏、貝類は産卵を向かえ、今が一年中で一番美味い時期である。今
の浅蜊にしろ帆立にしろ、詰りは“旬”なのだ。
「彦さん、他に何かご希望は在りますか」
と云われて、如何したかは充分察しが附くだろう。
程良い喉越しのお酒、また吟味し肴から引き出される会話が進捗しない
訳はない。とんとん拍子に六かしい主題は解決し、矢張りゆふいんの話し
になる。
「然し、彦さんや。大人が真剣になって“遊べる”ゆふいん音楽祭ってな、
いいですな。全く一年間、私達を飽きさせないのですから」
若旦那が歌舞伎役者だったら、アンバサタは「よっ、月島屋日本一」と大向
うから声を掛けたくなる台詞である。詰りは、月島の若旦那もアンバサタ同
様“ベタ惚れ”なのである。その言葉を追い駆ける様に
「ゆふいん音楽祭新聞第二号ですが、来週水曜日発行です。いいですか
彦さん、〆切りは厳守して下さい。私はその為に水曜日は有休をとりました」
その言葉に、アンバサタはどれ丈、感謝と感動を覚えたか。お察しあれ、
兄弟姉妹。
若旦那、即ち、月島の大編集者は今月18日に誕生日である。それも十
の位が一つ進む、という記念すべき節目。兄弟姉妹よ、願わくば23日、我
等が大編集長の弥栄を祈念し、杯を挙げられんことを。
そろそろ用事が終わるぞ、という夕薫、月島の若旦那に電話をした。
「若旦那、アンバサタです」
「お疲れ様。如何しました」
ええ、なんとなく声を聞きたくて、と暇潰しの相手に多忙な編集者を煩わせ
る程、アンバサタは非常識ではない。
「実は斯く斯く云云。あの、若旦那、本日はお休みですか」
「ええ。有楽町で買い物の最中です」
「若し、お宜しければ、直に御会いしてお話を伺いたいのですが」
「ええ、どうぞ。じゃあ、1時間後に」
と、電話を切った。だってさ、兄弟姉妹。突っ込んだ事を話すのに、目にも見
えない電波に頼っていては、その本意は伝わらないでしょ。ここに文明なる
利器の限界がある。がたごと地下鉄に揺られ、銀座は一丁目、待ち合わせ
場所の、ヤマハ楽器店の仮住まい(本店は只今改装中)に着きにけり。一寸、
アンバサタは早く到着したので、一階のCD売り場で居並ぶ音盤相手に夢中
になっていると「やあ、彦さん。お待たせしました」と、ゆふいん音楽祭新聞編
集長、月島堂主人、又の名を月島の若旦那が涼しげな装いで現れた。
「済みません、お呼び立て致しまして」
先ず、ヤマハでの用事を済まし、さてさて。
「彦さん、どっか這入りましょうか」
へえ、お任せします、と暫しの逍遥の後、一軒の店の暖簾を潜る。屋号を見
れば『三州屋』。彼の文人墨客も愛した大衆割烹である。
その高名さはアンバサタと云えども周知であり、一度は敷居を跨いでみた
と思っていた名店。
いらっしゃい、お飲みものは。という女将の問いに、若旦那は
「お酒を下さい。冷で二合」
と応えた。おいおい、こんな有名店でいきなり……と思い、屋内に貼られた
品書きを見ると、生ビール一杯550円。肴も大概500円~600円と驚く程
高くはない。
「お待ちどう様」
『白鶴』と染め付けた銚子と共に、お通しの「しらすおろし」が、白木の卓に
硝子の杯と共に並ぶ。その乙な風情も去る事乍、その肴が入った粋な器、
特に大根おろしの半分にうっすらと下地(紫、即ち、醤油の事也)が掛けて
あるのが心憎い。
「じゃ、彦さん。お疲れ様」
と、若旦那の音頭で杯を鳴らす。尽かさず肴の注文を採りに来た女将に向
かい
「では、鰹と、ほっき貝。それから蚕豆を下さい」
別段、若旦那を美化しよう、という積りは無いが、その注文は全て理に叶
っている。今の時期、鰹や蚕豆が美味いのは周知だが、貝とは恐れ入っ
た。
初夏、貝類は産卵を向かえ、今が一年中で一番美味い時期である。今
の浅蜊にしろ帆立にしろ、詰りは“旬”なのだ。
「彦さん、他に何かご希望は在りますか」
と云われて、如何したかは充分察しが附くだろう。
程良い喉越しのお酒、また吟味し肴から引き出される会話が進捗しない
訳はない。とんとん拍子に六かしい主題は解決し、矢張りゆふいんの話し
になる。
「然し、彦さんや。大人が真剣になって“遊べる”ゆふいん音楽祭ってな、
いいですな。全く一年間、私達を飽きさせないのですから」
若旦那が歌舞伎役者だったら、アンバサタは「よっ、月島屋日本一」と大向
うから声を掛けたくなる台詞である。詰りは、月島の若旦那もアンバサタ同
様“ベタ惚れ”なのである。その言葉を追い駆ける様に
「ゆふいん音楽祭新聞第二号ですが、来週水曜日発行です。いいですか
彦さん、〆切りは厳守して下さい。私はその為に水曜日は有休をとりました」
その言葉に、アンバサタはどれ丈、感謝と感動を覚えたか。お察しあれ、
兄弟姉妹。
若旦那、即ち、月島の大編集者は今月18日に誕生日である。それも十
の位が一つ進む、という記念すべき節目。兄弟姉妹よ、願わくば23日、我
等が大編集長の弥栄を祈念し、杯を挙げられんことを。
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by yufuin-brothers | 2007-06-10 02:17 | 燕燕訓