一枚の切符から
2007年 04月 07日
兄弟!
帰宅して晩酌にありつき、パソコンの前に坐り、さて今夜は何をみんなと共有し
ようかと思考しながら、一服している。何気なしに見上げた壁に一枚の切符が画
鋲で留めてある。
これは2003年、6月17日に池袋は東京芸術劇場で催された東京都交響楽
団によるコンサートの思いでの品なんだな。今夜はその話しをしようか。
指揮は故ガリ・ベルティーニ。曲目は前半がブラームス交響曲第2番、後半に
は同4番が演奏されたんだけど……。いやーこの前半が凄かった!一時期、こ
のオケの定期会員になっていたこともあるから、都響(東京都交響楽団の略称)
のシェフであるベルティーニの指揮には何度も触れていたのだけど、この日のベ
ルティーニは燃えに燃えていた。そもそもこの指揮者は大振り(指揮棒をぶんぶ
ん熱っぽく振りまわす事)が常なんだけど、この日はそれに輪をかけていた。そ
れに答えるオケもオケで、指揮者の一挙一動へ敏感に反応する。
大概、北ドイツの曇空のように地味なブラームスの交響曲の中で、この交響曲
第2番は珍しく解放的できらきらした太陽の光に満ち溢れている(2楽章を除いて)。
あの演奏では、そんな雰囲気を惜しむことなく前面に押し出しつつ、ベルティーニ
と都響が音楽を満喫し、心から楽しんでいるのが良く解る。特に終楽章のアグレ
ッシブなテンポとダイナミクスは、今までこの両者から聞いたことの無いような、
否、稀代の名演奏と謳われている、K・クライバーとヴィ―ンPOのそれをも凌駕
する位の熱気がコーダに向かって放出され続けている。
それを受けとめるお客の方だって冷静ではいられない。そこかしこで、今日はど
うしたんだろう、何かあったのかね、という表情で互いの顔を見合っている。当の
アンバサタだって、一緒に来た後輩某と各楽章が終わる毎に
「いいね、凄いね」
と、その某と目と目で語り会って、今、自分達がどんなに素晴らしい空間に居るの
かを確かめ合った。
最終和音が堂内に鳴り終え、ベルティーニが指揮棒を降ろした途端、嵐の様な
拍手と歓声が巻き興ったのは云うまでもないだろう。アンバサタと後輩某は我を忘
れ、その場に立ち上がり、ブラボーを叫び続けたのも無理はない。
それから間も無く、彼の名演を成し遂げたベルティーニの訃報を知り、随分驚い
た。あんなに元気だったのに……。
話しはちょいと遡り、あれは確かまだアンバサタが学生だった頃。横浜のホール
でベルティーニと都響がマーラー交響曲第2番『復活』を演奏した。小生もやっとマ
ーラーが聞けるようになった時期で、どうしてもこの曲の生体験がしたく、桜木町
迄出向いたのでした。演奏が終り、同道した某先輩と一杯やろうと、中華街へ足を
延ばしたら、どうも見たことある後姿が高級中華料理店に入って行く。
「あ、ベルティーニだ」
と、云うな否や、アンバサタは厚かましくも、その高級料理店に闖入し
「マエストロ・ベルティーニ!」(以下、邦訳。笑)
「はい、何でしょう」
「本日は素晴らしい演奏を有り難う御座いました」
「お楽しみ頂けましたか」
「ええ、偉大な演奏に大興奮しました」
「有り難う。来週、新潟でもこの曲を演りますから是非いらしてください」
と、苦々しい顔をしたマネージャーらしき男性を他所に、マエストロはアンバサタと固
い握手をして呉れました(残念乍、新潟までは、ねえ。笑)。
そんなこんなで、中華街での思いがけない邂逅と、彼のブラームスの大名演とが
この切符に込められているのです。だからこれは大切な『思い出の品』。
みんなもこういう経験、あるでしょ?
帰宅して晩酌にありつき、パソコンの前に坐り、さて今夜は何をみんなと共有し
ようかと思考しながら、一服している。何気なしに見上げた壁に一枚の切符が画
鋲で留めてある。
これは2003年、6月17日に池袋は東京芸術劇場で催された東京都交響楽
団によるコンサートの思いでの品なんだな。今夜はその話しをしようか。
指揮は故ガリ・ベルティーニ。曲目は前半がブラームス交響曲第2番、後半に
は同4番が演奏されたんだけど……。いやーこの前半が凄かった!一時期、こ
のオケの定期会員になっていたこともあるから、都響(東京都交響楽団の略称)
のシェフであるベルティーニの指揮には何度も触れていたのだけど、この日のベ
ルティーニは燃えに燃えていた。そもそもこの指揮者は大振り(指揮棒をぶんぶ
ん熱っぽく振りまわす事)が常なんだけど、この日はそれに輪をかけていた。そ
れに答えるオケもオケで、指揮者の一挙一動へ敏感に反応する。
大概、北ドイツの曇空のように地味なブラームスの交響曲の中で、この交響曲
第2番は珍しく解放的できらきらした太陽の光に満ち溢れている(2楽章を除いて)。
あの演奏では、そんな雰囲気を惜しむことなく前面に押し出しつつ、ベルティーニ
と都響が音楽を満喫し、心から楽しんでいるのが良く解る。特に終楽章のアグレ
ッシブなテンポとダイナミクスは、今までこの両者から聞いたことの無いような、
否、稀代の名演奏と謳われている、K・クライバーとヴィ―ンPOのそれをも凌駕
する位の熱気がコーダに向かって放出され続けている。
それを受けとめるお客の方だって冷静ではいられない。そこかしこで、今日はど
うしたんだろう、何かあったのかね、という表情で互いの顔を見合っている。当の
アンバサタだって、一緒に来た後輩某と各楽章が終わる毎に
「いいね、凄いね」
と、その某と目と目で語り会って、今、自分達がどんなに素晴らしい空間に居るの
かを確かめ合った。
最終和音が堂内に鳴り終え、ベルティーニが指揮棒を降ろした途端、嵐の様な
拍手と歓声が巻き興ったのは云うまでもないだろう。アンバサタと後輩某は我を忘
れ、その場に立ち上がり、ブラボーを叫び続けたのも無理はない。
それから間も無く、彼の名演を成し遂げたベルティーニの訃報を知り、随分驚い
た。あんなに元気だったのに……。
話しはちょいと遡り、あれは確かまだアンバサタが学生だった頃。横浜のホール
でベルティーニと都響がマーラー交響曲第2番『復活』を演奏した。小生もやっとマ
ーラーが聞けるようになった時期で、どうしてもこの曲の生体験がしたく、桜木町
迄出向いたのでした。演奏が終り、同道した某先輩と一杯やろうと、中華街へ足を
延ばしたら、どうも見たことある後姿が高級中華料理店に入って行く。
「あ、ベルティーニだ」
と、云うな否や、アンバサタは厚かましくも、その高級料理店に闖入し
「マエストロ・ベルティーニ!」(以下、邦訳。笑)
「はい、何でしょう」
「本日は素晴らしい演奏を有り難う御座いました」
「お楽しみ頂けましたか」
「ええ、偉大な演奏に大興奮しました」
「有り難う。来週、新潟でもこの曲を演りますから是非いらしてください」
と、苦々しい顔をしたマネージャーらしき男性を他所に、マエストロはアンバサタと固
い握手をして呉れました(残念乍、新潟までは、ねえ。笑)。
そんなこんなで、中華街での思いがけない邂逅と、彼のブラームスの大名演とが
この切符に込められているのです。だからこれは大切な『思い出の品』。
みんなもこういう経験、あるでしょ?
by yufuin-brothers | 2007-04-07 02:28 | 演奏会ア・ラ・カルト